「Solana最大の強みは、その高い柔軟性にあります。多様なアプリケーションや業界を同時に支援できるのです。」
——Solana Foundation プレジデント Lily Liu
イーサリアム（ETH）が10周年を迎え価格上昇で沸く一方、Solana（SOL）には新たな不安が生じています。かつて「Ethereumの対抗馬」とされたSolanaですが、このナラティブは以前よりも厳しくなり、今では「Solana競合」と呼ばれる新興勢力も急速に台頭しています。市場の力学が大きく変化していると言えるでしょう。とはいえ、適度な不安は個人にもプロジェクトにも必ずしも悪影響ではありません。Solanaのような成熟したチェーンは、困難を乗り越えることに長けています。本記事では、Solanaの新たな挑戦的取り組みを紹介し、Solana AIの現状と将来、特にAI分野に関する展望を詳しく解説します。

1 主要公式アップデート

1. Alpenglowアップグレード：PoHを超えて、俊足のSUIなど新興ライバルに挑む
   Alpenglowアップグレードは、Solanaのコアプロトコル史上最も重要な刷新と位置付けられています。これは、EthereumのPoWからPoSへの転換にも匹敵する規模です。目的は現行のProof of History（PoH）とTower BFTコンセンサスの置き換えです。
   なぜ刷新が必要なのか。PoHはほかの多くのブロックチェーンと異なり、タイムスタンプ同期の必要性を排除。Tower BFTは「単一リーダーの提案・他ノードによる投票」により、ブロック同期時間を大幅短縮し、Solanaは初期段階で他パブリックチェーンをリードしました。しかし、高負荷時にはPoHによる計算負担が増大。Tower BFTの単一リーダーボトルネックも重なり、外部から批判されるネットワーク障害の主因となりました。ノード運用コストも高く、分散化の障壁となっています。
   Alpenglowはこの課題をどう変えるのか。AlpenglowはPoHという計算負荷要因を排除し、Votor（ステーク加重型投票）を導入。トランザクションのシーケンスとノードクロックの組み合わせで承認を行い、リーダーノードの負荷を軽減します。設計上、将来は複数リーダーが同時にブロックを提案できる拡張性を備えています。さらにRotorによるブロック伝播最適化で、確定時間が従来の12.8秒から150ミリ秒まで短縮。通信・計算負荷も減少し、低スペックノードも効率的に参加でき、高性能化とハードウェア投資削減を両立します。
   Cogent CryptoのバリデータROI計算によれば、Alpenglow稼働後はバリデータ収益化に必要なステーキング量が4,850SOL（約80万米ドル）から450SOL（約7万5千米ドル）まで大幅低減する見通しです。
   Alpenglowホワイトペーパーでは「AlpenglowはSolanaの転換点であり、新しいコンセンサスプロトコルというだけでなく、Solanaがインターネット級インフラへ進化する鍵である」と記されています。つまり、より高速・安定・低コスト・高スケーラビリティ・分散化が実現し、パフォーマンス王座奪還とネットワーク障害解消へとつながります。
   1. ICMロードマップ：トランザクション刷新と「オンチェーンNasdaq」に向けた進展
      Alpenglow発表後、Solana LabsはAnza・Jito等主要エコシステムチームと連携し、Internet Capital Markets（ICM）ロードマップを明確化しました。Solanaは近年、低手数料・高スループットが評価され、ユーザーやDeFi取引が急増しましたが、トレード特化型チェーンHyperliquidがオンチェーン契約市場で70%以上のシェアを急速に獲得しています。Hyperliquid創業者は「Solanaは十分速くない」と公言しており、競争激化が進行しています。
      現在のSolanaトランザクション最終確定は12〜13秒。Hyperliquidは平均0.2秒、SUIは0.5秒。Alpenglow導入でSolanaの確認が150ミリ秒まで短縮され、Visaの取引速度と肩を並べますが、Nasdaqのマイクロ秒レベルには届きません。
      しかし、速度だけでは十分ではありません。新たなロードマップではApplication-Controlled Execution（ACE）を導入し、dApps（スマートコントラクト）が独自にトランザクション優先順位を設定して高度なロジック処理を柔軟に行えるようになります。
      市場メイカー保護とMEV（最大抽出可能価値）攻撃対策：Hyperliquidの注文マッチングエンジンは市場メイカー注文を優先し、MEV攻撃から守ることで一般トレーダーにも有利な価格を提供しています。SolanaのICMロードマップも同様で、BAM統合やAlpenglow対応によってSolana DEXは有害な高頻度アービトラージへの対抗力を高め、市場健全性・一般ユーザーの価格面でのメリットが向上します。
      より大きな野望
      DeFi領域でHyperliquidに並ぶだけでなく、Solanaは「真のオンチェーンNasdaq」構築を目指します。従来型IPOの煩雑さを回避し、オンチェーンで直接資金調達できる環境を目指しています。共同創業者Anatoly Yakovenkoは、1年以内にRWA（実世界資産）をオンチェーン化し、5年以内に規制対応・オープンソースのオンチェーンIPOを創業者向けに実現したいと述べています。最終的には開かれた低コスト・分散型インターネット資本市場の構築を掲げています。これは業界共通の目標でもあり、主要ブロックチェーンが類似の方向性を目指しています。
      Solanaはアーキテクチャ・性能・実世界ユースケースまで各層で改革を推進しています。今日の激しい競争環境下では、こうした戦略の成果が定着するまでには時間と市場検証が必要です。

2 激動期──AIナラティブの今後は？

パブリックチェーンのコンセンサス刷新は稀であり、国籍変更と同様に軽々しく行われるものではありません。大きな転換は重大な脅威の表れでもあります。
取引領域では、Hyperliquid（取引特化チェーン）がSolanaのDEXにおける永続契約分野の優位性を急速に奪い、SuiもDeFi・DeAI・その他分野でSolanaに並んできました。さらに、ETHはステーブルコイン、RWA、マイクロ戦略など新たなナラティブによって盛り返しています。Solanaはアップグレードを急ぎ、巻き返しを図る圧力に晒されています。
AI分野もかつてSolanaが強みを持っていましたが、競争が激化しています。DePINやAI Agentミームは勢いを失い、VirtualsエコシステムはAI Agent分野でBaseを躍進させ、BNB Chainは著名人や取引所資源を活用しSolanaのAIミーム層から存在感を奪っています。加えて、Bittensorサブネットが拡張し、AI Layer 1も次々登場し、DeAI分野で新たな勢力が形成されています。Solanaは不安の波に直面していますが、多くの試練を乗り越えてきたSolanaは決して揺らぎません。Alpenglowアップグレードがコミュニティに新たな自信を与えています。Solanaリーダー陣の姿勢は謙虚かつ現実的で、競合をベンチマークし弱点を補強し、ただ追随するのではなく先導を目指しています。
SolanaのAIエコシステムを検証することで、AIナラティブが新たな成長サイクルを創出できるかどうかが明確になります。

3 SolanaのAIエコシステム全体像

SolanaのAIプロジェクト開発は早期から多様に展開されており、非常に魅力的なエコシステムが形成されています。わかりやすくするため、以下の3段階に整理します。
第1段階：初期DePINブームとDeAIの発芽
DePIN（分散型物理インフラネットワーク）旋風によってSolanaはオンチェーン分散型AI分野で先陣を切りました。Solanaの高スループット・低コストを武器に、計算・帯域・データの分散型ネットワークを構築し、Solana AIエコシステムの基盤を築きました。
Render、io.net、Aethirなどが分散型計算資源の先駆者です：

• Renderは3Dアニメーションやメタバースレンダリングに特化し、ジョブの割り当てや報酬をSolanaで管理、スマートコントラクトでGPU提供者と顧客をマッチングします。
• io.netはAI・機械学習向け分散型GPU計算を低コストで提供。計算資源の自動配分を実現し、$IOトークンやノード貢献記録はSolanaが管理。
• Aethirはエッジコンピューティングによりリアルタイムアプリ（ゲームなど）の最適化を図り、エッジノードに計算分散。Solanaはトランザクション管理や$ATHトークン報酬連携を担います。

これら初期プロジェクトは大規模資金調達をもとに分散型計算ネットワーク分野で先駆的役割を果たしてきましたが、参加には高性能GPUが必要なケースも多く、一般ユーザーには敷居が高い面もあります。Grass、Helium、Roam、Gradient Networkなどは、より広範な参加を促しています：

• Grassは分散型データ収集ネットワークで、ユーザーはブラウザ拡張やアプリを導入するだけで帯域提供・ウェブデータ取得に貢献。活動記録はSolana上に残り、報酬は$GRASSで支払われます。
• RoamはコミュニティWiFiノードのネットワークを築き、世界各地で快適・安全なインターネットを実現。ユーザーはアプリでWiFiカバー範囲の提供・確認によって$ROAMを獲得、Solanaはノード管理・支払処理を担当。
• Gradient Networkは分散型エッジ計算プラットフォーム。ユーザーがプラグインを導入すればスマホやPCなどの端末でAI推論・コンテンツ配信・サーバーレス機能提供が可能。Solanaは端末連携・報酬管理を担って効率的な分散型計算を実現します。
• Heliumは分散型IoT・モバイル通信ネットワークを展開し、ホットスポットデータやトランザクションをSolana上で管理。ユーザーはHelium Hotspot（約200～500米ドル）を購入しカバレッジ提供と$HNT・$MOBILE獲得が可能。米国ではHelium×T-Mobile SIMを使い、「Mapping」機能で匿名位置データを共有すれば、ネットワーク最適化に貢献しCloud Pointsや$MOBILE、無料SIMトライアルも得られます。

こうしたプロジェクトは、ブロックチェーンとAIインフラ（帯域・データ・計算）の革新を牽引し、市場の信頼感向上とDeAI新章の幕開けに寄与しています。トークン価格が下落してもネットワーク効果は強く、大手企業との提携も進み、社会的認知拡大への歩みが加速しています。
第2段階：AI Agent急増期
ChatGPT等のLLM（大規模言語モデル）進化に伴い、オンチェーンAI Agentアプリケーションが昨年から急激に拡大。Solanaは高性能と活発なコミュニティを背景にAI Agentトークン・アプリの流行をいち早く実現しました。

• Wayfinder（Parallel Studios製、Solana Ventures出資）はAI Agentによりクロスチェーン管理を効率化。Solana・Ethereum・Polygon・Base間の資産移動をシームレスに実行。
• ElizaOSはAI Agent構築・運用・管理のためのオープンソースフレームワークで、Solana上で情報処理・取引・スマートコントラクト連携を迅速実行。AI16Z DAOガバナンス下、$AI16Zは一時25億ドルの時価総額を記録しましたが、ミーム過熱の後は正常水準へ。
• Holoworldは3Dアバター・動画などマルチモーダルAI Agentを誰でも作成・カスタマイズ・取引できるランチパッドで、Solanaスマートコントラクトで資産管理。
• Moby AIは当初Alphaリサーチ・リアルタイム暗号情報に特化したAI Agentとして登場し、今ではSolana上でAlpha獲得・トレード用ターミナルも提供しています。
• Hey AnonはSolana上のDeFAIプロトコルで、自然言語処理・リアルタイムデータ集約によりDeFi操作を簡素化。ユーザー管理・プロジェクト進捗通知・市場分析も担います。

Solana AI盛り上がりで、$ARCや$SWARMSなどのエージェントフレームワーク、$GRIFFAINや$BUZZなどDeFAI系、$HATなどAI Agentランチャー、$PIPPINや$ZEREBROといったエージェントも誕生しました。ブーム沈静化でトークン価格・活動量が低下し、稼働停止プロジェクトも出ています。
第3段階：ポストミーム期─実用的DeAIインフラ構築へ
市場冷却に伴い、Solanaではより実用・分散型AIインフラ構築にシフトする新世代プロジェクトが誕生：

• Nous ResearchはOpenAIに匹敵するオープンソースAIモデルの分散型学習に挑戦。Psycheネットワークはデータ圧縮でノード間通信負担を軽減し、帯域ボトルネックを打破。LLMプリトレーニングなど大規模学習にも対応。Solanaによるノード管理・報酬配分、Hermesモデル（Llama派生）は既に稼働中。
• ArciumはSolanaのプライバシープロトコルElusivが進化したもので、MPC・ZKPによる暗号化データの計算を実現。DeFi・DeSci・AIモデル学習/推論・AI Agent利用時のプライバシーを保護します。
• Neutral TradeはSolana上のヘッジファンドプラットフォームで、AI駆動型の自動・クオンツ運用戦略を提供。CTA Momentum戦略は大手クオンツ企業R* Research監修で最大年利95.11%を記録、1,000万ドルの募集上限にも達しました。

AIブーム沈静化後、競争は一層激化し、プロジェクト品質も向上。実装重視・実用化への明確なシフトが進んでいます。

4 Solanaの現行AIエコシステム─徹底解説

ご覧の通り、SolanaのAIエコシステムは早期に発足し、幅広い領域を網羅し、パブリックチェーン随一の競争力を誇ります。中心的なプロジェクトとして、Nous Researchは分散型・大規模AIモデル学習の課題に取り組み、Grassは分散型ネットワークで膨大な学習用データを収集、Arciumはプライバシーインフラを構築しています。他チェーンでは専用チェーンが求められるような規模のプロジェクトも、Solana上でネイティブに運用できる点が際立った強みです。
AIブームがBaseやBNB Chainほかに移った現在でも、AI領域は「勝者総取り」ではなくマルチチェーン協業に向かっており、ゼロサム競争にはなりません。AlpenglowアップグレードによりSolanaのAI優位性は以下の観点でさらに強化されます：

1. 圧倒的高速・低コスト：オンチェーンAIにおいては速度・スループット・効率が最重要です。MCPなどプロトコル下のAI Agentは分散型学習やデータ収集で高頻度・高速ノード連携を必要とします。Solanaは既に高効率ですが、Alpenglowにより確認時間が150msに短縮され、遅延・コストもさらに低減。リアルタイムAI活用が容易になります。
2. 強力な流動性：AIトークンには価格安定性と流通の利便性が重要です。SolanaのDEX日次取引高は14億ドル（Ethereumに次いで2位）、成熟したDeFiエコシステム（Raydium、Jito等）も揃っているため、AIプロジェクトは深い流動性プールに迅速アクセス可能です。アップグレード後は市場メイカーの流入も加速し、AIトークンの流動性・分布・資金調達力がさらに強まります。
3. 高度なスマートコントラクト対応：Solanaの並列処理やSVMによる柔軟な言語対応は、複雑なロジック（AI Agent意思決定、データ検証等）に不可欠です。Alpenglowでコントラクト機能と安定性がさらに向上し、AI開発者による市場構築・自動学習実行なども容易になります。
4. 分散化：SolanaはEthereumと比較して分散度の課題が指摘されてきましたが、現在ノード数は2,000超と他のパフォーマンス系・特化型チェーンを大きく上回ります。Alpenglow導入で参入障壁が下がり、分散化と検閲耐性も強化され、健全なグローバルAIエコシステムが実現します。
5. 統合型エコシステム：汎用チェーンとしてSolanaは成熟度・多様性で優れており、AI AgentがDePIN計算ネットワークやオンチェーンRWA資産と連携できるなど、分野横断の協業も容易です。統合的な環境はAIプロジェクトの成長・拡大を力強く後押しします。

5 総括

暗号資産市場では常に新しいナラティブが生まれ、沈静化する時には大きな課題も出現します。Solanaは強力なナラティブ創造力で知られています。「オンチェーンNasdaq」とAIナラティブは、Solanaの代表的テーマとなっています。Alpenglowアップグレードの到来で業界に大きな期待が広がっています。現状が一段落すれば、EthereumやLayer2全体とも競ってきたSolanaはより競争力を高めるかもしれません。二つのナラティブを維持し、多くの主要パブリック・特化チェーンと十分に渡り合えるかは、今後の動向次第です。

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